ひだまり通信

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日本初の「母乳バンク」スタート

2013 年 8 月 1 日 | お役立ちコラム | コメントは受け付けていません。

今年7月、日本初となる「母乳バンク」が東京都の昭和大学医学部小児科でスタートしました。あまり聞き慣れない言葉ですが、欧米各国をはじめ、中国、フィリピン、トルコなどでも設立され、海外では珍しくない存在です。今月は新生児育児に欠かせない「母乳バンク」についてご紹介します。

 

●低出生体重児には母乳が必須栄養

 

「母乳バンク」とは、母乳をぜひとも必要としている赤ちゃんに、他のママから提供された母乳を与えるシステムのことです。

かつては「もらい乳」などといって、日常の中で当たり前に行われていました。しかしHIVウイルスなど、母乳を通して感染する病気が知られるようになり、現在では粉ミルクの使用が一般的です。しかし近年、高齢出産などの影響で2500グラム未満で生まれる低出生体重児が増加し、体が未成熟なまま誕生した赤ちゃんに与える栄養について、さまざまな議論が起こっているのです。

健康に生まれた赤ちゃんなら、粉ミルクだけの栄養でも十分に成長することができます。しかし2500グラム未満の赤ちゃん、中でも極低出生体重児と呼ばれる1500グラム未満の赤ちゃんは、大人の手のひらサイズの大きさしかなく、体の各機能が未成熟です。したがって粉ミルクのたんぱく質が上手に吸収できず、様々な病気にかかる可能性があるのです。

 

●腸の病気が命取りになる

 

生まれたばかりの赤ちゃんの腸はまっさらな状態で、なんの防御機能も整っていません。腸に悪影響のある細菌などがやってきても、それをはねつける能力も不足しているのです。

母乳には新生児に必要な栄養が豊富に含まれていますが、中でも重要なのは腸の粘膜を成熟させて、バリア機能を作る作用です。母乳が腸管を通るなかで、自然と赤ちゃんの腸が整えられ、無理のない栄養吸収ができるようになるのです。

したがって低出生体重児を産んだママは、産後、できるだけすぐに母乳を出すことが求められます。病院側もサポートを行いますが、ママ自身の体調が整っていない場合もあり、母乳が出るまで数日かかることも珍しくありません。しかし赤ちゃんにとっては、この数日間が命の危機なのです。最初に飲ませるものは母乳がいい、ということは一般的な治療の考え方としても当然で、担当医師は母乳の産出をぎりぎりまで待ちます。その間、赤ちゃんは経管栄養だけで過ごしますが、腸が使われないため、機能が衰えてしまうのです。

母乳を待ちきれず、人工乳に踏み切った場合、しばしば壊死性腸炎という、赤ちゃんにとって命取りになりかねない重病を発症する場合があります。死亡率が高く、また命を取り留めても、その後の発達に影響がでることも珍しくありません。ほんの数日の間、ママの母乳が出るまでのつなぎとして、ドナーの母乳があれば、どれだけたくさんの赤ちゃんが助かるだろう。医師たちのそんな願いが形になり、今回の「母乳バンク」1号に繋がったのです。

 

●日本中に母乳バンクを広めたい

 

「母乳バンク」第1号ができた昭和大学では、ドナーミルクの扱いについて、とても慎重な方法を取っています。母乳を提供できるのは、同大学病院で出産し、赤ちゃんがNICUに入院しているママのみです。このような条件をつけると、ママの体調管理が確実で、母乳の安全性を担保しやすいのです。また母乳は低温殺菌して使うので、細菌などが赤ちゃんの体に入る心配もありません。

低出生体重児の誕生が増え続ける日本では、「母乳バンク」の必要性が日々、高まっています。同大学では、今後、NPO法人などを作り、「母乳バンク」を全国に展開したいと考えています。

 

以上、「母乳バンク」についてご説明しました。すべての赤ちゃんが健やかに育つため、ぜひ全国に広がって欲しい運動ですね。

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